ずっとずっとむかし、ぼくがまだ吠え方がうまくなかったころ 月はいつか、僕の胸元に落ちてきて 僕の宝物のように輝き続けるんだと思っていた でも、いつまでたっても月は落ちてはこなかった 僕にはわからなかった 恐ろしい雨雲… もっと読む »
カテゴリー: 月との約束
旅のはじめ方、はじまり方
よく行く公園のベンチから見える赤い扉 ずっと僕はその不思議な赤い扉に心がひかれていた 9月だというのに夏の日差しがじりじりとアスファルトを溶かすような昼下がり 僕はその閉ざされているはずの扉が、ほんの少しだけ開いているの… もっと読む »
夕陽と水切り
僕はとある島にたどりついた どのようにしてたどり着いたかは覚えていない たぶん、間違ってフェリーだか連絡船だかに乗ったのだろう なぜなら、僕の鼻にはしばらく重油のにおいが残っていたから 美しい海と美しい砂浜がある小さ… もっと読む »
風はどっち向き?
突然声をかけられた 「風はどっち向きだい?」 声の主は土が少し盛り上がったところにあいた穴の中にいた 僕は答えた。「森の方から吹いてくる」 今度の声はさっきより少し穴の奥からしてくるようだった 「そう… もっと読む »
新しい季節の迎え方
不意に今までと違う匂いが僕の鼻先をよぎった 池の魚が跳ねるときの匂い 若い葉と葉が擦れた時に生まれる匂い そしてミツバチが花から飛び立つ時の匂い 僕はある朝気づく そうか季節が変わったんだと そして季節が変わると… もっと読む »
渡る
僕は一晩中彼らの話を聞いていた 彼らの声はずっと緊張を帯びている。 そして今朝その緊張は覚悟に変わった これから彼らはいくつかの海と いくつかの峰と そしていくつかの夜を越えていく 仲間を失うことのなかった旅路は一度… もっと読む »
吹き溜まり
高い夜空に輪郭がくっきりとした月が冷たく輝きはじめた 大きく張った根の間に落ち葉の吹き溜まりを見つけた 少しかきわけて、疲れた足をたたむようにして丸くなってみる やがておなかのあたりにぬくもりがもどってくる 前足を並… もっと読む »
バタフライ・エフェクト
森の向こうに広がっていた青空が消えたいた 代わって黒い雲のかたまりがまるで生き物のように体をくねらせながら、森の向こうに降り立っていた その体から伸ばされた長い腕はもうすぐそこまで迫っていた いつの間にこんなことになって… もっと読む »
夢から覚めるときに見る夢
夕べの記憶と言えば、耳いっぱいに響く激しい雨の音だけだった そんな夜は、怒りともあきらめともつかない心を抱えながら目を閉じるしかない ただ無駄に動いて体を冷やすことだけは避けなくてはならなんだよ… そんなとても現実的な問… もっと読む »
僕らが空気に溶け込むとき
耳元でかすかに僕を呼ぶ声がしたような気がした わずかにまぶたを開けると 深い緑の森の木々を背景に 月の光に照らされた蝶が静かに舞っているのが見えた 空気の密度の違いをたどるように その蝶は不思議な弧を連ねながら やがて僕… もっと読む »