僕に足らないものを形にする

2015年度の経営を振り返ってみると、僕はいくつかの判断ミスをしました。その中の1つは数字上の影響とは別の次元で「してはならないミス」としてずっと心に刻まなくてはならないことでした。数字としては残らないものであったとしても、僕の経営者としての歩みの中で、1つの転機を示唆するものでした。僕に「根本的な勘違いがある」という証拠をつきつけた…そう思えるからです。
 
かつての僕は、心の根底で「頑張っていれば光明は見出せる」…もっと言えば、「努力を重ねていれば正しい判断はできる」と思っていました。僕より頑張っている経営者はきっと何十万人といらっしゃる…それでもうまく行かない会社もたくさんある…という事実から目をそらしていた…そういう時期がありました。「頑張る」は扉を開けるカギでは決してない…努力は扉の前まで僕らを連れていくけど、開けるカギではない…それが僕の学んだことでした。
 
カギは知恵だと思いました。知識では経営はできない。いくら優れた経営の本を読み重ねたとしても、常に動き、常に不確かさの中にある経営の実際において、それを生かし、生かし続けるためには「知恵」が必要です。そして、知恵を積むことで、「僕は正しい判断ができる」と今度は考えていた。そして、カギを得たと思った僕は扉を開けたのです。しかし、しばらくして僕は間違った扉を開けたことに気づかされることになりました。この数年、僕は知恵に頼ってきた気がします。しかし、それでも根本的に足らないものがあったのです。それを持たない限り、リーダーとして会社を導いていくことはできない…不可欠な何か…です。
 
この世は不条理なのかもしれません。運が左右する社会なのかもしれません。成功と失敗を分ける天秤は人の側にある…努力という分銅…知恵という分銅を載せ続けていれば、いつかは天秤はこちら側に振れる…そう確信していました。天秤は必ず重い側に振れる…そう信じていたのです。しかし、それとは別の思いや意志の方がはるかに重い…言い換えれば天秤は人の側にはない…という諦めが僕にはなかったのです。
きっとそれを諦めてしまうと、自分の心が折れるのではないか…そういうこわさを抱えていたのだと思います。その不条理に耐えられず、天秤は自分の側に持ってこられる…そういうおごりを持ったのです。
 
ところが、天秤は人の側にはないと考えるようになったときから、僕は逆にその恐怖をあまり感じなくても済むようになりました。これは自分ではまったく予想していなかったことです。扉の前まで自分を連れていくのは努力、扉を開けるカギは知恵、しかし、どの扉を開けるのが正解なのかは人知の及ぶところではない…それはもどかしい現実というより、不条理な無力感というより、一種の解放であるように思えます。それを何と呼ぶべきものなのか僕にはまだわかっていません。しかし、稲盛和夫さんが「宇宙の気」と呼ばれたものに限りなく近い…あるいはその入口であるように思えます。
 
会社は第49期を迎えました。50期を前にして、会社の期間限定のロゴマークを作りました。会社は「人」によってできていることを表し、その心(理念)が会社をつき動かしていることをハートマークに象徴させました。そして、人の上に輝くものが「宇宙の気」です。それが社員一人一人の輝きと愛に通じるものであることを願い49期目を迎えました。
 

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