フィールドに居続ける

会社が生き残れる確率は、起業3年後で100社に15社、10年後で100社に5社だそうです。当社は50年を越す社歴を持つ会社です。しかし、それが通用する時代ではないことは承知しています。僕たちは通過点として、まず10年の生き残りを考えることにしました。どうしたら、5%の中に入れるのか?
昨年の10月2日から1か月あまりの長い思考が始まりました。

まずは、運について考えました。5%…どう考えても努力だけでは獲得できない数字だと思えたからです。どうしても僕らは「運を味方につける」必要があるのです。

こんなラグビーの試合のワンシーンを考えました。

フォワード 第1列 フロントロー 田中、佐藤、前田
スクラムハーフの鈴木が、フッカーの佐藤の足元にボールを入れる。
そのときに佐藤はボールを足でコントロールするため片足を上げる。
その瞬間に相手のフォワードはチャンスとみて、一気に押してくる。
スクラムが崩されないように、第2列の ロックの伊藤高橋が第1列を後ろから助ける。
佐藤は相手の圧力に耐えながらすかさず足でボールを後ろに送る。
第3列 No.8の山本は足もとでボールをコントロールしながら、スクラムからボールを出すタイミングを待つ。
スクラムの横にいたスクラムハーフの鈴木は、山本のすぐ後ろ側でボール出しを待つ。その後方にいる司令塔の山口は後方の5人のバックスに対してどのサインを出すか考えている。
スクラムは押されると山本は判断。山本はスクラムから急いで足でボールを出す。鈴木はそれを拾ってすかさず後ろにいる山口にパスを出す。山口は相手の動きとスペースをみて左右のセンター、山田佐々木のどちらにボールを出すか、それとも蹴ってハイパントにするかを判断する。山口のサインはハイパントだった。山口はボールを蹴り上げる。前にいるフォワードをプレーに参加させるため、山口は必死にとにかく前に駆ける。そして、蹴ったときにすでに山口より後ろにいた、オンサイドのバックスも一気に前に走る。サインは、ハイパントで、しかも左のセンター山田が取るという作戦だった。ハイパントのボールは高く、深く相手陣にけりこまれていた。このときフルバックの俊足の黒田が斜めに走りこみ、補給体制に入っていた山田にぶつかった。ボールは黒田の手にすっぽり入るかに見えたが離れて宙に浮いた。そして前に落ちた。ノッコン。レフェリーが笛を吹いた。絶好のチャンスはそこで消えた。

ここで、山田のさらに左にいるウィングのがつぶやいた(僕も登場人物の一人です)。
黒田は走るときに、最後が大股なんだよね。だから目線がぶれてボールを落としやすい。前からそう思ってたんだよなあ。

これを耳にした、田中は僕に声をかけた。
試合に集中しよう。

はさらにぼそっとつぶやいた。
ボールが頭上にある時は、とにかく山田はマイボールって声をださなくちゃ…

これを聞いた前田は言った。
本人に聞こえなくちゃ意味がないだろ!

ここで次の言葉があった。新たな登場人物である井上
この戦況から考えて、ハイパントはギャンブル。相手ボールになったとしても、とにかくタッチに出して、まず陣地を挽回するべきでしたね。僕ならそう選択するなあ。

相手ボールのスクラムで試合が再開する。
ボールに集まってきたフォワードとバックス 15人

このとき、僕たちは15人にどんな表情でいてほしいと思うでしょうか?
落ち込んでいる黒田に対してキャプテンの田中はどういう声をかけてほしいと僕らは思うでしょうか?

山口がグラインダーを蹴ったボールは、敵陣のインゴールに向かって勢いよく転がっていく。
バックスの佐々木黒田もボールに向かって走る。
楕円のボールのどこかで跳ね上がる。
ちょうど走りこんだ俊足の黒田の目の前でボールは跳ね上がった。
黒田は胸の前でそのボールを抱えて、そのままトライした。
運が味方になった瞬間だった。

ワンシーンの想定はここまでです。

この幸運は誰にでも起こりうるものかもしれません。
幸運というのはそういうもの。起きないときもある。でもいつか必ず起きるものです。
幸運を引き寄せるための第1の条件は、起きると信じて準備すること…のようです。

ハイパントの絶好のチャンスを逃した15人に僕らはどういう表情を期待するでしょうか?
そして、チームをリードするリーダーにはどのような言葉を期待するでしょうか?
幸運を引き寄せるための第2の条件は、前向きであること…のようです。

「本人に聞こえなくちゃ意味がないだろ!」という言葉にあるように、幸運を引き寄せるためには、チームを信じて、互いに率直に言い合うことが大事なようです。そのことが、チームの大切な資質である「学ぶ力」を生みそうです。
幸運を引き寄せるための第3の条件は、率直であること…のようです。

田中さんがに声をかけた「試合に集中しよう」も重要ですね。
後悔したり、失敗を目にしたり、あるいは失敗・叱責を恐れたりすると、試合という『今』から心が離れてしまいがちです。大事なことは、「それでも試合は終わっていない」という認識…かもしれません。。
幸運を引き寄せるための第4の条件は、今を生きる…のようです。

もう1つ、残念だけど絶対に幸運が訪れない人がいます。
幸運が訪れるその世界に物理的にいない人です。
井上さんです。
この方はスタンドにいる方です。
僕らはともすると、がつぶやいた「黒田は走るときに、最後が大股なんだよね。だから目線がぶれてボールを落としやすい。前からそう思ってたんだよなあ」とスタンドにいるような発言をしがちです。
耐えきれずに、プレーヤーの目線を離れてしまいたくなります。でも自分を第三者的にしてしまうと心は軽くなるかもしれませんが、幸運の当事者ではなくなります。
意見が正しいか正しくないかで運は訪れるものではないようです。
幸運を引き寄せるための第5の条件は、いかなるときもフィールドに居続ける…のようです。