僕はとある島にたどりついた
どのようにしてたどり着いたかは覚えていない
たぶん、間違ってフェリーだか連絡船だかに乗ったのだろう
なぜなら、僕の鼻にはしばらく重油のにおいが残っていたから
美しい海と美しい砂浜がある小さな島だった
西に傾いた大きな夕陽が、はるかな水面に、ひとすじの道をつくっていた
僕は自分が一人のおじいさんの傍らに座っていることに気づいた
おじいさんは夕陽に、もしかしたら僕に、語り始めた
わしには息子がおった
あの子は水切りが得意だった
石は水面を何度も蹴って、最初は大きく飛び、やがて小さく細かくなって波に飲まれていく
いつか島の向こうの国まで届かせるんだと
この浜辺で、夕日に向かってずっと石を投げ続けていたものだ
やがてわしよりも背が高くなり
漁の手伝いをするようになった
それでもときどき水切りをしておった
やがて息子は立派な戦士になった
そして、島の向こうの国に行った
だが投げた石は決してもどらない
どんなに血が流れてもけっして染まることのなかった海が
夕陽に赤く染まるころ
浜辺には波の彼方を目で追うおじいさんの姿がある
そして、静かに聞いてくれそうな誰かが通りかかると
この話を静かにはじめる
相手は、人でも雲でも、そして僕でさえもよかったのだ