渡る

僕は一晩中彼らの話を聞いていた
彼らの声はずっと緊張を帯びている。
そして今朝その緊張は覚悟に変わった
 
これから彼らはいくつかの海と
いくつかの峰と
そしていくつかの夜を越えていく
仲間を失うことのなかった旅路は一度としてなかった
 
闇のなかで眼下に白く光る波頭は、疲れた彼らを
深い海の中にある休息に誘い
眼前にそびえる白い頂たちは、疲れた彼らを
決して覚めることのない眠りへと誘う
彼らはみないつの日か自分がその誘いに従う日の来ることを知っている
ただわからないのは、その定めの旅路がいつなのか…そのことだけだ
 
彼らは本当の闇の話と本当の静けさの話を僕にする
今朝彼らの声は緊張から覚悟に変わった
渡りの時期がもうすぐそこまで来ているのだ

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