月との約束

ずっとずっとむかし、ぼくがまだ吠え方がうまくなかったころ
月はいつか、僕の胸元に落ちてきて
僕の宝物のように輝き続けるんだと思っていた
でも、いつまでたっても月は落ちてはこなかった
 
僕にはわからなかった
恐ろしい雨雲がその姿を覆い隠してしまっても、どうして
月はまたその姿を夜空に映すことができるのかを
 
僕にはわからなかった
どんなに強い風が吹こうとも、どうして
月はじっとそこにいることができるのかを
 
僕にはわからなかった
月はどんなにに小さくなっても、どうして
失ったものたちを集めてまた元の姿になれるのかを
 
どんな深い夜が訪れても
どんなに遠く道を失ったとしても
月は僕の姿を大地に淡い影にしてみせた
 
やさしく僕の話をずっと聞いてくれた夜もあったし
僕を寂しさの中に置き去りにしたまま、ただ遠くで見ていた夜もあった
今でも僕にはわからないんだ
どうして今もきれいな夜空になると
決まって僕が見上げるのをただただ黙って待っててくれるのかを
 
僕は月とどんな約束をしたんだろうか

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