宝物に触れること

障がい児の自立のための活動を本当にささやかながら支援をさせていただいています。そのアート展が代官山で催され、そのオープニングパーティの挨拶を「すべての人の心の中にあるそれぞれの宝物のために」というタイトルで紹介しました。今回はそのパーティでのひとこまをご紹介したいと思います。
 
アート展は知之君の絵を中心に障がい児たちの「自分を生きる」を掲げその自立を支援している一般社団法人「からふる」http://color-fuls.com/ の「アトリエからふる」のみなさんのアートをご紹介しました。
その知之君の友情出演として、同じダウン症を抱える麻由さんのピアノのミニ演奏会がありました。彼女は「音とリボン」というグループに所属していろいろな演奏に参加しています。音のリボンが作成された彼女のプロフィールの一部をご紹介しましょう。「…ピアノは5歳から始め、国立音楽院ピアノ科を卒業。
NY国連とカーネギーホールの演奏会に参加…」
 
最初に演奏してくれたのが、「Over the Rainbow」、それから「Rhapsody in Blue」などのアメリカで愛されている名曲をメドレー形式にアレンジしたものを披露されました。思わずスイングしてしまう曲ばかりでした。そして最後の締めくくりの曲で僕は完全にノックダウンされました。彼女が最後に選んだ曲…それは、Amazing Grace でした。
 
Amazing Graceは讃美歌 (ゴスペル) の名曲ですが、偶然にもちょうどその1週間前に、Amazing Graceが生まれた背景と歌詞の正しい意味を聞かされました。残念ながら日本語訳のアメージンググレースは元の英語の歌詞を忠実に表したものではなかったようです。
 
Amazing Graceは、驚くべき恵みという意味です。船乗りを父に持つイギリス人が数奇な運命をたどりこの詩を生みました。父から航海を学び奴隷船の仕事で若くして富を築いたそうです。しかし、彼が20歳をすぎイギリスに向かったある航海の時にひどい嵐に会い、彼は遭難しかかります。船倉には穴があき今にも転覆しそうになります。彼は敬虔なクリスチャンである母を10歳にもならないときに亡くしました。幼いころ読み聞かされた聖書を思い出し、生まれて初めて必死に祈ったそうです。その甲斐があってか、投げ出された荷物が船倉にあいた穴をふさいで浸水が弱まり奇跡的に難を免れました。後に彼は牧師となり、奴隷貿易に携わったことを悔い、そして奇跡的に助かったことに感謝して、このAmazing grace! How sweet the sound…で始まる美しい詩を作ったそうです(曲は民謡が起源ではないかとも言われているようですが不詳です)。
 
驚くべき恵み…なんと甘美な響きだろうか。私のような哀れな人でさえ救ってくれた。私はかつて失われたが、今では見つけられた。かつては盲目であったが、今は見ることができる。その恵みは私の心に恐れを教え、そして恵みが恐れを和らげた。なんと高貴な恵みが現れたことか。私が最初に信じたその時に…という意味で始まるこの曲も、その背景を知ると心に迫るものがずっと深くなりますね。
 
私たちはともすれば、人生と言う航海の中で遭難しそうになります。そして、不運を嘆きます。僕もそうでした。そしてこれからもついつい責任を不運に求めてしまうでしょう。でもそのほとんどは、恐れを失った結果でした。そして、その恐れを知らない心の底には欲があります。僕もそのことで多くの間違いをしてきました。不運の原因さえも自分の問題であることを、ようやく…やっと、認識できるようになってきました。
 
麻由さんのピアノを聴いているうちに、しだいに嵐が遠く去った後の静かな海のような気持ちになりました。彼女の選曲は、希望、楽しむこと、恐れを知ること…の大切さをそのまま僕らに教えているようでもありました。彼女のピアノは、まさしくAmazing graceそのものでした。感謝をこめて。
 

20160620-1