セルフキャリブレーションが精度に与える影響

JIS K5600-1-7では膜厚計の精度の例として、電磁誘導法・渦電流法ともに、偏りは±2%+1μmと記載されています。この精度がJISが求める精度の期待値であるとも考えられます。この精度を確保するためにJISでは、厚みが分かっているフォイルなどの校正標準を用いて使用前と使用中に校正を行なうように指示しています。今回はこの校正作業について第三世代の膜厚計も加えて現場視点で考えてみたいと思います。

校正時に使用した素地と実際の製品素地の特性が異なった場合の影響(鉄素地)

左側はE社の鉄のゼロ基準板で0点校正を行ない、その状態でJIS G3141の鉄素地上の樹脂膜を測定した場合の誤差を検証したものです。
グラフ縦軸の数値は誤差%で、赤の1点鎖線はJISの精度期待値です。この赤の1点鎖線と同じか下にあることが求められます。

膜厚計は素地の特性の違いに強く影響を受けることが分かります。素地(0点)校正でも2点校正を行っても、測定値は当てにならないようです。
ちなみにE社の鉄のゼロ基準板はJIS G3141の冷間圧延鋼板とはかなり特性が違うことから、精度確認用であって校正用ではないと考えるべきでしょう。

測定対象塗装品と同じ素地を用意して校正をした場合

同じ素地で校正すれば精度は十分に確保されることがわかります。橋梁構造物などの場合2点校正が規定されている場合が多いようですが、最近の膜厚計は0点校正のみでも十分な精度が得られるので、運用はもう少し現実的でも良いように思われます。重要なのは校正(調整)が1点か2点なのかより素地の特性が違っていないか…にあると言えるでしょう。

ちなみにQ社が提供しているゼロ基準板を用いた場合(参考として)

Q社が提供するゼロ基準板はJIS G3141と特性が近いようです。精度確認用のゼロ基準板と0点調整あるいは2点調整用の素地板は分けて考えるべきではありますが、精度確認用のゼロ基準板も実際の塗装品の素地と特性があまり違わない板を用いられた方が良いように思います。

渦電流式膜厚計で校正時に使用した素地と実際の製品素地の特性が異なった場合の影響も検証してみました

誤差が大きくなる傾向にあります。Q社のアルミゼロ基準板は、JIS 1050アルミ板とは特性が異なるようです。

今回の試験の目的はどのメーカーが優れているかを示すものではありません。あくまで校正に用いる際の素地の影響が大きいことをご確認いただき、さらにその影響の大きさがメーカーにより異なる可能性があることを示すためのものです。本実験結果で膜厚計の優劣を考えるのは尚早だと考えます。